2010年5月アーカイブ

衛星デジタル放送に関して規制が緩和されたことは前述した通り。

チャンネル数の限度枠が大幅に緩和された96年2月から、番組検索サービス業者、顧客管理を代行する業者などが続々と設立し、同年4月までに35社が委託放送事業者として認定された。

もともとは入9年、放送法・電波法の改正により、放送事業は委託事業(ソフト)と受託事業(ハード)に分離し、その結果CSデジタル、およびBSデジタルが認められるようになったのだ。

委託放送事業者とは番組のコンテンツを制作したり供給する業者で、郵政省による認定が必要である。

一方、受託放送事業者は衛星・放送設備を使って放送を配信・管理運営する業者で、トランスポンダの管理やアップリンク(電波発信)局を運営する。

これは郵政省による免許が必要になる。

このようなソフトとハードの分離によって、大規模な設備を持たない委託放送事業者でも、放送局を名乗って自らのチャンネルを持てるようになった。

委託放送事業者はコンテンツを制作・供給して衛星へ送信。

それを受信した衛星サイトを管理する受託放送事業者が契約した視聴者やCATVへ配信する。

ソフトであるコンテンツを制作・供給する委託放送事業者は、最低でも1億円?1億5000万円もあれば放送局を開局できる。

事実、マンションの=至で開局している専門局もあるくらいだ。

また、顧客(加入者)を集めるために広告宣伝を代行し、登録・管理する会社をプラットフォーム事業と呼ぶ。

ここでは番組の管理のほか、視聴者へのサービスなどを担当している。

ここではCSデジタル放送の"プラットフォーム事業"を展開する「パーフェクTV」、「ディレクTV」、「JスカイB」の3系統(実際は「パーフェクTV」と「JスカイB」の合併により2系統態勢)について、簡単に紹介する。

各社の実情について述べる前に、その事業形態について触れておこう。

2000年(平成12年)に打ち上げを予定している放送衛星「BS-4」の先発機はハイビジョンや「WOWOW」と同様のアナログ方式だが、後発機に適用されるのはデジタル方式だ。

これで、放送業界も全面的にデジタル化されるだろう。

衛星放送だけでなく、ほとんどの放送をデジタル化することで、日本もいよいよデジタル時代を迎える。

デジタル化は同時に多チャンネル化が可能となる。

今後、CSデジタルTVの加入者が増え、多チャンネル放送が一般の視聴者にまで普及する可能性は高い。

そうなるとソフトの充実、つまりコンテンツ(番組の内容)をグレードアップできるかが生き残りの分かれ目となる。

こうなると、従来のように放送業界の新聞社を母体とした"系列化"(読売=日本テレビ、毎日=TBS、産経=フジテレビ、朝日=テレビ朝日、日経=テレビ東京)、および番組制作というソフト部門の多くを"下請け"で補ってきた体質が問題となってくる。

スポンサーの提供によって無料で視聴できた情況に甘んじる消費者は依然としているだろうが、コンテンツで勝負する多チャンネル時代では、"系列化"や"下請け依存"といった経営システムは成立しない。

いま放送業界は、スポンサーがいなくてもコンテンツの魅力によって一人立ちできるかどうかの瀬戸際に立たされているといっても過言ではない。

これが従来のスポンサー付きの番組作りに堕してしまったり、海外ソフトに依存してるだけでは、今後の日本の放送文化には期待できない。

ほんとうの意味でCSデジタルTVが繁栄するには、視聴者が料金を払ってでも観たいコンテンツをどれほど生み出せるかにかかっている。

海外でも通用するようなコンテンツ作りと、そのオリジナリティが求められているのだ。

このようにデジタル化への移行は避けられないのだが、90年代初めまでアナログ方式のハイビジョン普及を先導していた郵政省としては、微妙に方針を変更したわけだ。

電波監理審議会は行政側に放送のデジタル化について、93年に結論を出すように求めていた。

ところが政府と業界は具体的な議論をしないままで、明確な方針を打ち出せなかった点に問題があった。

デジタル技術発達のスピードを読み違えたことも、対応の遅れをまねいた原因だろう。

それでも94年5月に発足した「マルチメディア時代における放送のあり方に関する懇談会」では、TV放送のデジタル化について積極的な方針を打ち出している。

ただし、デジタル方式だけではなく、アナログ方式のハイビジョン普及も推進するというアナログ/デジタル併存を主張していた。

この懇談会の結論によると、CS放送のデジタル技術が発達することによって2000年には40?50曲に増えると予測していた。

予想以上に放送に関する規制緩和が進んだという点を差し引いても、この時点での技術予測は実際の進歩と大きく違っていたのだ。

予測当時より2年も前の95年の時点で、300曲近くまでCSデジタルのチャンネルが増えてしまうとは......。

予測が間違っていたのか、技術の進歩が速かったのか。

たしかに当時のCS放送は、バブル経済の崩壊も影響して厳しい情況にあった。

それでもデジタル化によって低コストが実現できれば好転すると考えられていたものの、トランスポンダの利用率も低迷していたため、積極的な予測は難しかったようだ。

ちなみに、CS企業の老舗ともいえるJSAT(日本サテライトシテムズ)は「パーフェクTV」の重要な出資者に名を連ねている。

およびCSアナログ放送のスカイポート・グループとCSバーン・グループは98年9月に放送を終え、CSデジタル放送に移行。

スカイポート系の『スター★チャンネル』や『MTV』、『CNN』、およびCSバーン系の『衛星劇場』や『BBCワールド』などは「パーフェクTV」で放送を継続しているし、スカイポート系は「ディレクTV」でも放送している。

CSアナログの加入者がスムーズにデジタルに移行できるように、チューナーの無料提供といったサービスも展開している。

欧米をはじめ、中南米やアジアでも衛星放送の主流はデジタルだ。

CSデジタル放送でトップを切ったのはアメリカのTCI(テレ・コミュニケーションズ)社などが出資する「プライムスター」で、94年4月。

続いてヒューズ・エレクトロニクス社の「ディレクTV」のほか、96年にはイタリアのテレピュ社による「テレピュ・サテライト」などが、現在しのぎを削っている。

同時に地上波の放送もデジタル化が進んでいる。

イギリスやアメリカの地上波TVがデジタル化するスピードに対して、従来の日本の政策、つまり2005年までにデジタルを導入するというノンビリした対応では、世界の趨勢に遅れをとってしまう。

そこで99年末には、なんとか地上波もデジタル化したいと焦っているわけだ。

イギリスではBBCが97年にデジタル化を実現し、翌年には地上波、衛星、CATVによる"三つ巴"のデジタル戦争が始まっている。

99年にはアメリカが地上波をデジタル化していく。

放送業界は衛星に限らず、デジタル化への道を突っ走っている。

欧米では、すでに93年に次世代TVのデジタル化が決定していたそうだ。

郵政省は96年4月、中長期ビジョンをまとめた。

「地上波やCATV、衛星放送などのTV放送は2000年?05年に導入し、10年までに全面的にデジタル化する」というものだ。

すでに海外ではデジタル方式が主流なだけに、このままでは放送の高度化に乗り遅れると懸念したのだろう。

翌97年3月、郵政省は地上波TVのデジタル化を「今世紀中に早めたい」と新政策を発表。

地上波デジタル放送を2000年以前に始められるよう制度の整備を進めると、放送行政局長が述べた。

このままでは欧米に遅れるとの危機感の表れだが、行政による新政策の打ち出し方としては異例のスピード会見だった。

通常、政策を決定するには審議会や懇談会を開いたうえで関係者の意見を集約するのだが、今回はこうした"根回し"をしないで発表した。

まず行政が提案した後に、業界や関係者が意見交換するという欧米の政策決定スタイルを採ったようだが、それほど急いでいたということもできる。

19世紀末、イタリアの発明家が電波を使った無線通信を発明し、船舶との通信事業を始めた。

その後、無線通信は低い周波数帯域から開拓され、ラジオの中波、短波、超短波(30?300メガヘルツ:FM放送、TV放送、航空無線)、そして極超短波(300メガヘルツ?3ギガヘルツ:TV放送、携帯電話、PHS)へと活用されてきた。

そして、マイクロ波(3?30ギガヘルツロレーダー、衛星通信)を使うのが衛星放送である。

しだいに高い周波数帯域の利用へと進んできたわけだ。

TVの場合、以前は隣のチャンネルとの電波干渉を防ぐため、周波数のすき間を設けていたが、送信機や受信機の性能が向上したことから、そのすき間を活用できるようになってきた。

すき間活用の例が85年からスタートした文字多重放送である。

文字多重放送は映像を送る周波数帯域のなかで余っている部分を活用している。

97年6月から始まったTVとパソコンの融合をるデータ放送も、すき間活用の一例だ。

これはパソコンにデータを送るもので、テレビ朝日とANN系列局が番組『アダムス』で導入。

同年10月からTBSも同じようなサ!ビスを『データパレード』という番組で始めた。

そして、デジタル放送こそ、すき間を活用した好例である。

デジタル放送では隣のチャンネルの電波が互いに干渉しないため、すき間なく電波を使える。

21世紀はTVにとっても画期的な新世紀となるはずだ。

放送のデジタル化とともに、インターネットTVが普及する可能性が大きいからだ。

96年9月にアメリカに登場し、日本では97年12月からスタートした「WebTV」が注目を集めている。

このサービスを利用するには、専用端末をTVと電話回線のモジュラージャックに接続すればいい。

オンラインで加入契約をすれば、すぐにインターネットを使うことができる。

ますますインターネットが身近なものとなるうえ、デジタルTVの機能が拡大したといえるだろう。

トランスポンダ使用料は委託放送事業者が払う……「パーフェクTV」のケース
プラットフォーム会社の事業範囲は顧客管理や広告宣伝に限定。

そのため、コンテンツを制作・供給する委託放送事業者からの手数料が収入となる。

一方、委託放送事業者の収入は「パーフェクTV」の取り分の約2倍の比率となる。

ただし、委託放送事業者がトランスポンダの使用料を支払う。


トランスポンダ使用料はプラットフォーム会社が払う……「ディレクTV」のケース
フラットフォーム会社の株圭のなかの6社が委託放送事業者となる会社を設立し、各社が3チャンネルずつを担当する.この委託放送妻者は上フンスポンダの使用料を支払う必要はないが、レベニューシェア方式によって収入の一0?35%を受け取る。

一方、プラットフォーム会社は収入の50?80%が取り分となる。

この方法はアメリカに多いタイプで、番組編成に関してプラットフォーム会社の意思を反映しやすい。


コンテンツ・プロバイダーを設立……「JスカイB」のケース
魅力的なソフトを持つ制作プロダクションなどを委託放送事業者として受け入れ、株主であるソニーやフジテレビが"コンテンツ・プロバイダー"としての役割を担う。

複数のコンテンツ・プロバイダーを設立し、ユニークなコンテンツ作りを指揮する。

「JスカイB」は通常のプラットフォーム事業とともに、著作権処理などの権利処理の問題も扱い、制作環境を整備する業務を担当する。

地上波TVによる放送形態のほか、CATVは意外に古くから存在している。

CATV局が初めて開局したのは一955年(昭和30年)。

もともとCATVは地上波がとどかない難視聴地域のための放送形態だから、山間部などにケ1ブルを引っ張っていた。

そんなところから、CATVのインフラ整備はスタートしたのだ。

広大なエリアを持つために地上波ではコスト高となるアメリカでは、各地のCATVが急成長した。

ラジオで各地方のローカルな地元局に人気が集まるように、各地のCATV局が個性を競ったという。

アメリカのような環境とは違うものの、9ヱハ年3月末の日本でのCATV局は320局となり、加入者数は=○○万世件を超えた。

大規模なCATV局、いわゆる多チャンネルを配信する都市型CATV局がスタートしたのは87年。

ここでいう"都市型"とは"多チャンネル型"とほぼ同じCATV局を指している。

原則としてオリジナル番組を提供を主な目的とし、区域外での再送信をセールスポイントにしないケースを都市型CATV局と呼んでいる。

郵政省では都市型CATV局の条件として、引き込み端子数が一万件以上、再送信ではない自主放送の番組が5面以上ある、そして双方向対応型のトランスポンダ(中継増幅器)を使っている、の3つを挙げている。

都市型CATVは多チャンネルを配信し、視聴者とのインタラクティブな情報交換や、オンラインショッピングができるようになる。

また、CATVも次々とデジタル化されるので、CSとの類似点も多い。

デジタル方式で配信するデジタルCATVは、当然、CSの多チャンネル放送も送信できる。

CATVのケーブルを活用した低料金の電話サービスのほか、パソコン通信やインターネットの利用も具体化されつつある。

放送と通信の境界がなくなって互いの融合が進むなか、デジタル化したCATVもマルチメディア時代の有効なツールとなるだろう。

96年3月、都市型CATV局の施設は200に達し、加入件数は300万件を超えた。

規制緩和の一環として、郵政省がアメリカでCATV事業の中核となっているMSO(マルチプル・システムズ・オペレーター)の存在を認めたことが、CATV局の急増の一因となっている。

従来は一定地域でしかできなかったCATV事業が、複数のフランチャイズ(事業区域)に配信できるMSOによって事業として安定しやすくなった。

そのためCATV局はMSOを中核とした全国的なネットワークの構築を目指している。

ただし、CATVと地上波TVとCSなどの衛星放送の3メディアは互いに連携するとともに、競合する関係にある。

たとえば、CATVを通して衛星放送を視聴できる反面、衛星放送を直接受信した加入者はCATVを解約するケースが出てくるわけだ。

テレビジョンをはじめとして、これまでのメディアは、供給者側から消費者に一方通行に供給するものであった。

しかし、個人レベルでの端末の普及、ネットワーク技術の進展により、各消費者からの情報を得ることができ、双方向の情報交換が可能となった。

これは、単にオンデマンドが実現できるだけでなく、個人レベルでのユーザニーズと動向の把握が可能になった点で、これまでのマーケティングを大きく変えるものである。

こうした、メディア・ビッグバンは、単にメディア産業のみならず、社会生活や商業にも大きな影響を与えることであろう。

そうしたメディア・ビッグバンの中核をなすものとして、「インターネット」「ニューブロードキャスト」「モバイル・メディア」「ソリッド・メディア」があげられる。

次節では、それらについて洞察する。

デジタル化社会の浸透により、情報機器や記録媒体の価格、通信費用は大きく低減している。

一方、消費者が通信やメディアに支払うことのできる費用、さくことのできる時間には限界があり、メディア問におけるシェアの奪い合いが始まっている。

すでに、戦後初めて出版物の売り上げが低減し、テレビ放送の視聴時問もテレビゲームやインターネットに奪われつつある。

一方、供給者側においては、デジタル化やメディアの複合化により、大幅な合理化の可能性がある。

このため、今後、製造業や商業に続いてメディアや情報サービスの分野においても、価格競争もしくは媒体の再編が起こりうるかもしれない。

一方で、価値あるメディアに消費者が集中することも考えられる。

いずれのケースにしろ、現在のメディア産業の再編成を促す可能性がある。

紛媒体の垣根の破壊コンテンツのデジタル化は、フォーマットとメディアを分離し、媒体を選ばないようになったことで、それまで媒体に縛られていたコンテンツ販売を大きく変える可能性を開いた。

たとえば、これまで音楽はレコードやCDといった媒体として売られていたが、デジタル・フォーマットされた音楽ファイルは、ディスクに記録して販売するだけでなく、ネットワークで販売してユーザがダウンロードして利用することもでき、一つのファイルがさまざまな媒体で利用・販売できるようになった。

こうした動きは、近い将来、動画やリアルタイム放送にも拡大し、視聴権ビジネスなど、放送(メディア)事業者とコンテンツ供給事業者が分離することが予想される。

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