2003/08/28
BS(放送衛星)やCS(通信衛星)放送、CATV(ケーブルテレビ)など有料放送各社が新たなマーケティング手法を始めた。スカイパーフェクト・コミュニケーションズ(スカパー)によるサッカーの日韓ワールドカップ(W杯)無料放送が呼び水となり視聴者は急増したが、その後は反動で鈍化した。各社は番組供給会社との連携や地元密着などあの手この手で契約者獲得に動いている。
「インフラ会社ではなくエンターテインメント会社として営業しないと新規加入者は獲得できない」――。CATV最大手のジュピターテレコム(J―COM、東京・豊島)の森泉知行社長は3月の就任直後、社員に語りかけた。同社のCATV加入者で高速インターネットと電話の新規加入者は2ケタ成長を続ける半面、多チャンネル放送の伸びは横ばい状態。
打開策としてアニメ「カートゥーン・ネットワーク」を持つジャパン・エンターテインメント・ネットワーク(東京・中央)と組み、同番組のキャラクターをラッピングした宣伝車を都内の営業地域で走らせた。全国各地で展開する販促イベントにも使い、J―COMの加入者獲得と同番組の認知度向上につなげている。
今月24日には系列7局(約122万世帯)でアニメ番組「キッズステーション」などCS放送の人気チャンネルを12時間、無料放送した。「アンパンマン」など子ども番組を多く放送しファミリー層の加入を促す。
首都圏を中心に13のCATV局を統括運営するジャパンケーブルネット(JCN、東京・中央)は系列局の営業地域にある地元商店と連携したカード事業で加入者を囲い込む。横浜市港南区などを営業地域とするシーエーティービー港南(横浜市)は8月から多チャンネル放送加入世帯に専用カードを無料配布。加入者は約50の協賛店舗でカードを提示すると特典がある。例えばゴルフ練習場では打席料が半額だ。
カード事業でCATV局側は加入者を囲い込むと同時に地元企業からの広告出稿を増やせる。提携店舗はCATV局が加入者に配る番組ガイド誌やホームページに無料で店舗の紹介を掲載できる。
BS放送のWOWOWは急増するブロードバンド(高速大容量)通信加入者を対象に高画質高音質のハイビジョン番組の配信を8月から始めた。BSデジタル放送のハイビジョン番組を見たブロードバンド利用者が新規加入するようなきっかけ作りを狙う。配信するのはスティーブン・スピルバーグ総指揮のテレビドラマ「バンド・オブ・ブラザーズ」。WOWOWの月額500円のブロードバンド通信サービスとして全10話を順次配信する。
スカパーは昨夏始めた110度CS放送のテコ入れを進めている。BSデジタル放送と同じ東経110度上の衛星を使うため、同じ受信機で両放送を視聴できる。将来性を期待されていたが実際は伸び悩んでいる。10月から広告・宣伝活動を増やすほか、電器店にアンテナ設置のための販売奨励金を支払う。
CATVや衛星放送に有料番組を供給する番組ソフト会社も新規加入者獲得に動いている。「ディスカバリーチャンネル」など人気番組を持つジュピター・プログラミング(JPC、東京・新宿)は、高級ホテルを狙う。シングル料金3万円以上のホテルは映画やスポーツなどの有料番組を無料で提供するところが増えている。高級ホテル専従のスタッフを置き、同社の番組放映を働きかけている。ホテルで無料視聴した宿泊客が関心を持つようになれば、自宅での有料視聴が期待できる。
JPC系列のゴルフ専門番組「ゴルフネットワーク」は7月に小学生高学年から高校生までのジュニア層を対象にしたゴルフレッスン番組を始めた。若年層にゴルフの楽しさや正しいマナーなどを紹介し、ゴルフ人口のすそ野を拡大すると同時にゴルフ番組への関心も高める。
日本の多チャンネル放送普及世帯は3月末で17%前後。業界では「見たいときに見たい番組を見られるビデオ・オン・デマンド(VOD)など新たな視聴方法提供と番組内容の充実で、欧米並みの40%前後まで伸ばせる」(竹岡哲朗JPC社長)とみている。ただ、新規加入者獲得には放送会社のマーケティング活動と並び、番組自体の質的向上が欠かせない。これまで必ずしも視聴者の要望に沿わない番組編成がったり、誹謗中傷対策が不十分だったのも事実。放送会社と番組供給会社が協力し、実際の視聴形態に即した放送時間で、番組会社自らが要望の多いコンテンツ(情報の内容)を制作するなどの対策も必要となりそうだ。
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