アメリカ最大のCSチャンネルが日本にも登場した。
97年12月に本放送を開始した「ディレクTV」は、衛星(スーパーバードC)を打ち上げてから4か月ほどでスタートさせたことになる。
これはかなりの早ワザだ。
少なくとも「パーフェクTV」の準備期間と比べると、とてつもなく速い。
「ディレクTVジャパン」の社長はレンタルビデオ・チェーンの「TSUTAYA」を全国展開しているCCC(カルチュア・コンビニエンス・クラブ)の増田宗昭会長である。
レンタルビデオの加盟店数は約940店、会員数は1000万人を越える。
および、「ディレクTV」の株主である3菱グループでは3菱電機店が約4000店、同じく松下電器店は約2万2000店といった家電量販店を活用して加入者の営業、チューナーの販売に力を入れている。
「ディレクTV」は地上波TVのCMでアーノルド・シュワルツェネッガーを起用。
キャッチコピーは「ニッポンのタイクツを救え!」である。
誰もが知っているシュワちゃんが登場することで、CMの訴求力を高める戦略だ。
CMでのシュワちゃんはアメリカの大統領候補に扮しており、日本向け輸出を拡大すると公約。
記者が「何を輸出するのか?」と聞くと、シュワちゃんは「食料品や航空機ではなく、エンターテインメントだ」と答え、自らコンテナに入って輸出商品になるという内容だ。
「ディレクTV」の特徴の一つは、アメリカCSデジタル放送の最大手であるヒューズ・エレクトロニクス社が出資者に名を連ねていることだ。
ヒューズ社といえば、GM(ゼネラル・モーターズ)の子会社であり、衛星のメーカーとして世界シェアの40%を占めている。
ヒューズ社の会長兼CEO(最高経営責任者)であるマイケル・スミス氏は、68年にGM入社。
92年にヒューズ社の副会長となり、97年11月、会長に就任した。
GMのジョン・スミス会長の実弟である。
日本で「ディレクTV」が開局した際にマイケル・スミス氏は来日し、サービスの徹底をアピールした。
ヒューズ社による一ディレクTV」は全米はもとより、中南米でも実績を上げつつある・そんな背景もあって、日本での加入者獲得の見込みは強気な計画を打ち出している。
それによると、一年目となる9入年末には約38万件、2000年末には一66万件の加入者を目指しているそうだ。
とりあえず、CSアナログのスカイポート・グループに加入していた9・5万件は、そのまま「ディレクTV」に無料で移行し、加入者数の基盤となった。
今後、CSデジタル放送の加入者数はどのくらいの勢いで伸びるだろうか?簡単に予測してみると、2000年末の時点でCSがフィーバーした場合を考えると、最多で500万件。
ただし、これはチューナーの価格が大幅に値下がりし、CS局がIRD(受信機)のメーカーや販売店に支給するインセンティブが高額化した場合だ。
もちろん、魅力ある番組が多く、視聴者に支持されなければ難しいのは当然だ。
しかし、たとえ番組は評価を得たとしても、500万件というのは現実的ではない。
実際は300万件がやっと、最低の場合は200万件を越せないかもしれない。
しかも、2000年までにBSや地上波TVのデジタル化をスタートさせるという郵政省の発表により、BSデジタルがCSにとって最大の強敵となる。
その結果、250万件といったところが妥当だろう。
最終的には500万件くらいが限界なのではないか・・・。
ところが、各社のペイライン(採算分岐点)は、加入者数が150万?200万件ないと苦しいので、単年度での黒字を出すには、さらに数年かかるだろう。
ただし、加入者を増やそうとするあまり、インセンティブを高額にすると、ペイラインはより高くなる。
こうした情況を考えると、「ディレクTV」の加入者見込みの数値は高すぎる。
目標なのだから高く設定するのは当然だが、日本でのCSデジタル市場がかなりの勢いで急成長しない限り、難しいものがある。
というのも、気になるのはスタートした時点での63曲のうち、3分の1は先行している「パーフェクTV」と重複していることだ。
「ディレクTV」は強力なコンテンツを準備しているとのことだが、オリジナル性のあるソフトをいかに的確に素早く提供するかが、多チャンネル時代に生き残る方策なのだ。
それが視聴者にブレイクすれば大化けする可能性はある。
「ディレクTV」は98年から2年間にわたり、Jリーグ全試合のCS放映権を取得。
放映権料は明らかにされていないが、推定数億円以上といわれている。
ワールドカップ出場とからんで、Jリーグのフィーバーぶりが過熱すると加入者も急増するはずだ。
「WOWOW」(日本衛星放送)や徳間書店が参画している点も有利に働きそうだ。
「WOWOW」が調達した映画やスポーツ番組を「ディレクTV」ではPPV(ペイ・パー・ヴュー)方式で配信。
それに「ディレクTV」では「WOWOW」との共聴アンテナを開発した。
ユニークな番組がないわけではない。
「ディレクTV」の出資者でもある松下電器産業が開発した双方向機能"インタラクTV"を利用すると、画面に映し出されたデータを見ながら視聴者がリモコン操作で投票することができる。
たとえば、競馬の人気番組である『グリーンチャンネル』では、発表されたオッズを判断しながら視聴者がリアルタイムで投票するそうだ。
この『グリーンチャンネル』は「パーフェクTV」でも配信されているものの、リアルタイムでの視聴者による投票は今のところ「ディレクTV」だけだ。
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