2010年6月アーカイブ

97年2月に打ち上げられた衛星(CSAT-4)によって、98年4月に放送をスタートしたのが「JスカイB」(有料となる本格放送は7月から)。

オーストラリアのメディア王、ニューズ社のルパート・マードック会長が鳴り物入りで参画したことは記憶に新しい。

また、わが国のベンチャーの雄といえる孫正義氏が率いるソフトバンクも参画し、孫氏が社長に就任。

その後、「パーフェクTV」との合併交渉の関係もあり、現在はソニー出身の卯木肇会長が社長に就任し、なにかと話題になっている。

マードック氏は97年5月の国際雑誌連合の東京大会で「今後、世界で普及するのはCATVよりも衛星デジタル放送だ」と明言し、CS事業に対する意欲と期待を述べた。

マードック氏はイギリスの放送大手でCS事業を展開している「BスカイB」社を所有しており、ドイツでは「キルヒ」社の「DF1」とも提携。

国際的な配給ネットワークを整備している。

さらに、マードック氏はハリウッドの映画会社各社に対しても、大きな影響力があるという。

「JスカイB」は最後発ではあるものの、あなどれない存在である。

それに、豊富な音楽・映画ソフトを所有するソニー、放送局のノウハウを蓄積しているフジテレビが資本参加している点はプラス要因だ。

具体化しているチャンネルのなかには、高齢者向けの健康情報番組『シニアチャンネルVanVan』などもあり、まさに多チャンネルのCSならではの番組といえる。

といっても、後発ゆえに加入者獲得にはそれなりの魅力と対策が必要になる。

なぜなら、無料で放送している地上波TVが広範囲に普及しているわが国で「いきなりCSデジタル会社が共存できるのか、それも300チャンネルも必要あるのか......と危惧する推測が多いからだ。

そんななか、97年7月「ディレクTV」と「パーフェクTV」との提携を前提とした交渉が不調に終わった。

これで「ディレクTV」は独自路線を歩むことになった。

一方、チューナーの共有化が具体化している「パーフェクTV」と「JスカイB」は、両者の意向によってはデジタル放送事業の根幹にかかわるカスタマーセンターの一本化を模索していた。

97年一2月、「JスカイB」は「パーフェクTV」に合併交渉を申し入れ、交渉を開始した。

両社に出資しているソニーが仲介役となり、交渉が始まった。

しかし合併比率"1対1"の対等合併を条件とする「JスカイB」に対して、「パーフェクTV」の主要株主は難色を示したようだ。

なぜなら、すでに50万件の加入者を持ち、実績のある「パーフェクTV」と、これからスタートする「JスカイB」が対等合併するにはいかないというわけだ。

しかし、98年一月には合併成立。

今後CS業界は「パーフェクTV」+「JスカイB」(「スカイパーフェクTV」)対「ディレクTV」という2対一の構で、営業展開されることになる。

合併が具体化した一因には、「2000年までにBSや地上波TVのデジタル化を推進する」という郵政省の発表が大きく影響している。

BSや地上波TVがデジタル化してチャンネル数が増えると、CS側の経営を圧迫するのは当然だ。

これを回避し、経営基盤を強固にする方策として両社の合併が浮上したのであろう。

合併によって筆頭株主となるソニーは、以前からのハード面での放送機材事業に続き、ソフト面ではアメリカの映画会社を買収。

多彩な番組を供給できるようになった同社が求めていたのは、メディアとしての放送局(プラットフォーム事業者)である。

これでソニーは情報伝達ルートの川上から川下まで、全体を把握した事業を展開できるようになったのだ。

アメリカ最大のCSチャンネルが日本にも登場した。

97年12月に本放送を開始した「ディレクTV」は、衛星(スーパーバードC)を打ち上げてから4か月ほどでスタートさせたことになる。

これはかなりの早ワザだ。

少なくとも「パーフェクTV」の準備期間と比べると、とてつもなく速い。

「ディレクTVジャパン」の社長はレンタルビデオ・チェーンの「TSUTAYA」を全国展開しているCCC(カルチュア・コンビニエンス・クラブ)の増田宗昭会長である。

レンタルビデオの加盟店数は約940店、会員数は1000万人を越える。

および、「ディレクTV」の株主である3菱グループでは3菱電機店が約4000店、同じく松下電器店は約2万2000店といった家電量販店を活用して加入者の営業、チューナーの販売に力を入れている。

「ディレクTV」は地上波TVのCMでアーノルド・シュワルツェネッガーを起用。

キャッチコピーは「ニッポンのタイクツを救え!」である。

誰もが知っているシュワちゃんが登場することで、CMの訴求力を高める戦略だ。

CMでのシュワちゃんはアメリカの大統領候補に扮しており、日本向け輸出を拡大すると公約。

記者が「何を輸出するのか?」と聞くと、シュワちゃんは「食料品や航空機ではなく、エンターテインメントだ」と答え、自らコンテナに入って輸出商品になるという内容だ。

「ディレクTV」の特徴の一つは、アメリカCSデジタル放送の最大手であるヒューズ・エレクトロニクス社が出資者に名を連ねていることだ。

ヒューズ社といえば、GM(ゼネラル・モーターズ)の子会社であり、衛星のメーカーとして世界シェアの40%を占めている。

ヒューズ社の会長兼CEO(最高経営責任者)であるマイケル・スミス氏は、68年にGM入社。

92年にヒューズ社の副会長となり、97年11月、会長に就任した。

GMのジョン・スミス会長の実弟である。

日本で「ディレクTV」が開局した際にマイケル・スミス氏は来日し、サービスの徹底をアピールした。

ヒューズ社による一ディレクTV」は全米はもとより、中南米でも実績を上げつつある・そんな背景もあって、日本での加入者獲得の見込みは強気な計画を打ち出している。

それによると、一年目となる9入年末には約38万件、2000年末には一66万件の加入者を目指しているそうだ。

とりあえず、CSアナログのスカイポート・グループに加入していた9・5万件は、そのまま「ディレクTV」に無料で移行し、加入者数の基盤となった。

今後、CSデジタル放送の加入者数はどのくらいの勢いで伸びるだろうか?簡単に予測してみると、2000年末の時点でCSがフィーバーした場合を考えると、最多で500万件。

ただし、これはチューナーの価格が大幅に値下がりし、CS局がIRD(受信機)のメーカーや販売店に支給するインセンティブが高額化した場合だ。

もちろん、魅力ある番組が多く、視聴者に支持されなければ難しいのは当然だ。

しかし、たとえ番組は評価を得たとしても、500万件というのは現実的ではない。

実際は300万件がやっと、最低の場合は200万件を越せないかもしれない。

しかも、2000年までにBSや地上波TVのデジタル化をスタートさせるという郵政省の発表により、BSデジタルがCSにとって最大の強敵となる。

その結果、250万件といったところが妥当だろう。

最終的には500万件くらいが限界なのではないか・・・。

ところが、各社のペイライン(採算分岐点)は、加入者数が150万?200万件ないと苦しいので、単年度での黒字を出すには、さらに数年かかるだろう。

ただし、加入者を増やそうとするあまり、インセンティブを高額にすると、ペイラインはより高くなる。

こうした情況を考えると、「ディレクTV」の加入者見込みの数値は高すぎる。

目標なのだから高く設定するのは当然だが、日本でのCSデジタル市場がかなりの勢いで急成長しない限り、難しいものがある。

というのも、気になるのはスタートした時点での63曲のうち、3分の1は先行している「パーフェクTV」と重複していることだ。

「ディレクTV」は強力なコンテンツを準備しているとのことだが、オリジナル性のあるソフトをいかに的確に素早く提供するかが、多チャンネル時代に生き残る方策なのだ。

それが視聴者にブレイクすれば大化けする可能性はある。

「ディレクTV」は98年から2年間にわたり、Jリーグ全試合のCS放映権を取得。

放映権料は明らかにされていないが、推定数億円以上といわれている。

ワールドカップ出場とからんで、Jリーグのフィーバーぶりが過熱すると加入者も急増するはずだ。

「WOWOW」(日本衛星放送)や徳間書店が参画している点も有利に働きそうだ。

「WOWOW」が調達した映画やスポーツ番組を「ディレクTV」ではPPV(ペイ・パー・ヴュー)方式で配信。

それに「ディレクTV」では「WOWOW」との共聴アンテナを開発した。

ユニークな番組がないわけではない。

「ディレクTV」の出資者でもある松下電器産業が開発した双方向機能"インタラクTV"を利用すると、画面に映し出されたデータを見ながら視聴者がリモコン操作で投票することができる。

たとえば、競馬の人気番組である『グリーンチャンネル』では、発表されたオッズを判断しながら視聴者がリアルタイムで投票するそうだ。

この『グリーンチャンネル』は「パーフェクTV」でも配信されているものの、リアルタイムでの視聴者による投票は今のところ「ディレクTV」だけだ。

スーパーモデルのナオミキャンベル、そして97年6月からは松田聖子を地上波TVのCMに起用したことでも話題となった「バーフェクTV」。

CSのアンテナを見て「これ、なあに?」と聖子が聞くと、コシノ・ジュンコが「パーフェクTV」のアンテナ、と答えるバージョンのほか、CSを知らない人に対して絶叫する聖子、あるいは通行人を「パーフェクTV」に勧誘する聖子といったパターンがある。

CSデジタル放送に関して、日本では「バーフェクTV」が草分け的な存在だ。

スタート時点では衛星「JCSAT-3」の打ち上げから試験放送まで11か月ほどかかったものの、96年10月に本放送を開始した。

当初は96年6月に本放送を開始する予定だったが、日本初のCSデジタル放送だけに、調整に予想以上の時間が必要だったようだ。

といっても、3社のなかで先頭を切って開業した「パーフェクTV」は、加入者レースで充分に先行したうえで"逃げ切り"を狙っている。

目標は毎月5万の契約者を獲得すること。

しかし「ディレクTV」の猛追があると、うかうかしてられない。

毎月の加入者数の目標は5万件のようだが、実際には3万件強といったところのようだ。

97年3月末までの目標である30万件は、わずか2ヵ月後に達成。

スタートしてからちょうど一年目の97年10月には約45万件に達した。

そして12月には加入者がついに50万件を超えた。

しかし、97年3月期の決算では、まだ72億円の赤字を計上。

年内に増資して100億円を調達したという。

CSデジタルという市場を開拓するには、加入者にCS用のIRD(受信機)を買ってもらわなければならない。

そのため、メーカーや流通業者に対してインセンティブ・プロモーション(報奨金などによる販促方法)を実施している。

これが赤字を増やす一因になっているようだ。

97年9月期での累積損失は150億円、98年3月には200億円を越える。

ただし、97年末に資本金を200億円に倍増。

主要株主にTBSが加わり、コンテンツへの判断力が増したようだ。

「ディレクTV」が本放送を開始する前に加入者を60万件にしたかったところだが、およそ一年間で50万件の加入者を得たというのは、92年にスタートしたCSアナログ放送の加入者と比べると格段に速いペースである。

NHK衛星放送のペースにはおよばないものの、「WOWOW」とほぼ同じ程度に伸びている。

「パーフェクTV」の目標としては98年度内には100万件、さらに99年度内には150万?200万件を目指しており、単年度黒字を期待しているようだ。

アメリカで加入者数を順調に伸ばしているヒューズ・エレクトロニクス社の「ディレクTV」の契約者は、スタート一年目で100万件だった。

人口が日本の約2倍であることを考えれば、パーフェクTV」と同じペースである。

アメリカのCS市場はライバル社があることを差し引いても、有料放送にまだ慣れていない日本での成績としては合格点といえる。

加入者獲得のための宣伝として、家電量販店に来る客だけでなく、集客力のある飲食店などで「パーフェクTV」を体験してもらい、その魅力を紹介する方法も採っている。

そのよい例が、アサヒビールの子会社であるニューアサヒのレストラン「サテライト・ダイニング・アサヒスーパードライよこはま」だ。

店内には40台のTVモニターを設置し、常時「パーフェクTV」の番組のなかから映画やスポーツなどを流している。

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