97年2月に打ち上げられた衛星(CSAT-4)によって、98年4月に放送をスタートしたのが「JスカイB」(有料となる本格放送は7月から)。
オーストラリアのメディア王、ニューズ社のルパート・マードック会長が鳴り物入りで参画したことは記憶に新しい。
また、わが国のベンチャーの雄といえる孫正義氏が率いるソフトバンクも参画し、孫氏が社長に就任。
その後、「パーフェクTV」との合併交渉の関係もあり、現在はソニー出身の卯木肇会長が社長に就任し、なにかと話題になっている。
マードック氏は97年5月の国際雑誌連合の東京大会で「今後、世界で普及するのはCATVよりも衛星デジタル放送だ」と明言し、CS事業に対する意欲と期待を述べた。
マードック氏はイギリスの放送大手でCS事業を展開している「BスカイB」社を所有しており、ドイツでは「キルヒ」社の「DF1」とも提携。
国際的な配給ネットワークを整備している。
さらに、マードック氏はハリウッドの映画会社各社に対しても、大きな影響力があるという。
「JスカイB」は最後発ではあるものの、あなどれない存在である。
それに、豊富な音楽・映画ソフトを所有するソニー、放送局のノウハウを蓄積しているフジテレビが資本参加している点はプラス要因だ。
具体化しているチャンネルのなかには、高齢者向けの健康情報番組『シニアチャンネルVanVan』などもあり、まさに多チャンネルのCSならではの番組といえる。
といっても、後発ゆえに加入者獲得にはそれなりの魅力と対策が必要になる。
なぜなら、無料で放送している地上波TVが広範囲に普及しているわが国で「いきなりCSデジタル会社が共存できるのか、それも300チャンネルも必要あるのか......と危惧する推測が多いからだ。
そんななか、97年7月「ディレクTV」と「パーフェクTV」との提携を前提とした交渉が不調に終わった。
これで「ディレクTV」は独自路線を歩むことになった。
一方、チューナーの共有化が具体化している「パーフェクTV」と「JスカイB」は、両者の意向によってはデジタル放送事業の根幹にかかわるカスタマーセンターの一本化を模索していた。
97年一2月、「JスカイB」は「パーフェクTV」に合併交渉を申し入れ、交渉を開始した。
両社に出資しているソニーが仲介役となり、交渉が始まった。
しかし合併比率"1対1"の対等合併を条件とする「JスカイB」に対して、「パーフェクTV」の主要株主は難色を示したようだ。
なぜなら、すでに50万件の加入者を持ち、実績のある「パーフェクTV」と、これからスタートする「JスカイB」が対等合併するにはいかないというわけだ。
しかし、98年一月には合併成立。
今後CS業界は「パーフェクTV」+「JスカイB」(「スカイパーフェクTV」)対「ディレクTV」という2対一の構で、営業展開されることになる。
合併が具体化した一因には、「2000年までにBSや地上波TVのデジタル化を推進する」という郵政省の発表が大きく影響している。
BSや地上波TVがデジタル化してチャンネル数が増えると、CS側の経営を圧迫するのは当然だ。
これを回避し、経営基盤を強固にする方策として両社の合併が浮上したのであろう。
合併によって筆頭株主となるソニーは、以前からのハード面での放送機材事業に続き、ソフト面ではアメリカの映画会社を買収。
多彩な番組を供給できるようになった同社が求めていたのは、メディアとしての放送局(プラットフォーム事業者)である。
これでソニーは情報伝達ルートの川上から川下まで、全体を把握した事業を展開できるようになったのだ。